
友人に誘われて訪れた喫茶店。そこに並んでいたのは、生き物をモチーフにした作家ものの器でした。料理とともに出されたその器に、心がふっと震えるようなときめきを感じ、「日常の中で使うもので、こんなにも心が動くのか」と驚かれたのだそうです。その出会いが、こいずみちはるさんを陶芸の世界へと導きます。
小さいころから絵を描くことが好きだった小泉さん。大学の経済学部卒業後、企業で商品企画に携わっていたそうですが、その喫茶店でのときめきから、自分でも作ってみたいと陶芸教室へ。その後京都の陶芸の学校で学びながら、自身の作品も作り始めるようになります。現在は東京に移り工房を構え日々作陶に励んでいます。

想像の中に生きる不思議ないきものたちをモチーフにしたうつわやオブジェ。ゆるやかでやさしい雰囲気をまといながらも、すっと澄んだ空気が流れるような不思議な魅力があります。そこには、ただの道具以上に「使う人の相棒のような存在になれたら」という想いが込められています。

陶土が乾かないうちに彫りを入れて顔の表情を作っていきます。目の部分は顔料をいれて、息をふきこむように。

同じ名前の作品でも、一つひとつに少しずつ違う表情やフォルムが宿っているようで、角度や光によって印象が変わります。まるで生きているかのようにさまざまな一面を見せてくれます。
すべすべの陶土に淡く重ねられた色彩は、半透明の釉薬を透かしてやわらかく輝き、どこか儚く幻想的。空想の生き物が描かれたマグを手にすれば、置いた時と持ち上げた時で違う表情を見せてくれるでしょう。

「思わず“君はどうしたんだい?”と話しかけたくなるようなユーモアのある雰囲気が好きなんです」と、こいずみさんは語ります。

SNSで目にするちょっとした表情の動物や、小さな子どものしぐさに心をとめたり、最近ではストップモーションアニメやヴィンテージの人形からも着想を得ているそうです。
「作品づくりは、あらかじめゴールを決めて取りかかるのではなく、器に鼻のパーツをつけた瞬間の印象をもとに表情を形づくっていきます。」
ほっておけないような愛らしさが、暮らしの中にそっとときめきを添えてくれる...。まるで見える人だけ見えている、妖精のような存在感。日常の片隅にふと現れるその姿は、見る人の心をやさしくほぐし、穏やかな時間へといざなってくれそうです。
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