ただそこにあるだけで佇む美しさ、それでいて何人をも受け入れてくれるようなあたたかさ。栃木県益子町で作陶している樋口早苗さんに制作のことなどお話を伺いました。
樋口早苗さんの作品は、まるで美しい絵画を見た時のようなじんわり心に染み入る感情が湧き上がってきます。息をのむような繊細で緻密な筆致。濃淡が織りなす奥行きのある色合い。細部までじっと見てまたため息...。見るたびに新しい発見がある素敵なうつわです。繊細な絵付けができるようコリンスキーやタヌキの毛でできた日本画用の絵筆を使用しているそうです。絵筆を変えた際は、楽しくてついつい絵を入れすぎてしまったこともあったそう。
「日々の暮らしの中で少しでも良い時間を提供出来たら嬉しいなと思いながら制作しています。」と樋口さん。
「用と美」の相互作用。陶芸の魅力についてそう教えてくれました。「用の美」とは、職人の手から生まれる素朴な日常使いの雑器は、道具として使うからこそ美しいと美術評論家で思想家の柳宗悦が謳った言葉です。民藝運動の中心メンバーでもある陶芸家 濱田庄司が終の住処として窯を持った地でもある益子。その精神が息づく地で、樋口さんは日々作陶されています。
「粘土の塊から想像した形になっていく過程が面白く楽しいです。でも、それ以外の作業や工程がほぼ占めていて、大変だと思う方が大半かもしれないです。」と樋口さん。
制作の際には、具体的な陶芸作品を見て参考にするということはほとんどないそうですが、本を読んだり、見たり、音楽を聴いたりして思い浮かんだイメージを膨らませて作ることが多いそう。
やさしい風合いで、土ものならではの少しざらつきのある手触りです。繊細優美なお花の絵付けと溶け合い、やわらかな印象に。
「うつわの表面は、素地にかけている化粧土(白い泥状のもの)と釉薬双方の作用によるものです。無機質な感じの白ではなく、土らしく、奥行きと柔らかさのある白にしたくて、試行錯誤しながら調合しました。」
「表情や風合いへのこだわりは、結局は自己満足のような気もするので、見ている人、使う人がなんとなく好きだなとか、逆に好みではないななど、色々と思っていただけたら嬉しい。」と樋口さん。
ひとつひとつの質問にも言葉をかみ砕いてお答えくださり、そのやさしさにいつもほっこりさせていただいています。繊細な華やかさをも持ちながら使う人の気持ちの寄り添ったいうつわは、日々の暮らしをより豊かなものにしてくれます。
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