栃木県の益子町にある老舗の窯元「えのきだ窯」さんは現在、榎田智さんと若葉さんご夫妻が5代目を務める老舗の窯元さんです。益子陶器市でも人気作家の工房へお邪魔させていただきました。
若葉さんのおじいさまは、日本の民芸や益子焼の歴史を語る上での重要人物、民藝運動の陶芸家で有名な濱田庄司さんの職人さんとして働かれ、天皇陛下から勲章を受章された方。また、若葉さんのお父さまである4代目の勝彦さんも急須づくりの名人でいらっしゃいます。
ちょうどお邪魔した時に、普段は店舗内のお客様がゆっくりくつろいで作品を見れるよう設置された囲炉裏スペースのお部屋が閉鎖されていたので、どうしたのかしらと思ったら、先週お店の前の個所から水が溢れてきてしまったのだそう。
「コロナの時に前から気になっていた屋根をちょうどいいやと直したら、今度は水道管がおかしくなったみたいで。水が漏れてきたので直しました。」と若葉さん。
えのきだ窯本店のこの場所は、築100年以上の立派な古民家で元細工場(さいくば)だったそう。お二人がご結婚されてから、ゆっくりと作品を鑑賞できる囲炉裏を囲んだスペースを併設したモダンな内装に変えられました。それでも古い家を維持するは大変。物理的なことはもちろん精神的なことも含めて伝統を継承するのは並々ならなぬ苦労があると思うのですが、お二人はいつも前向きで落ち着いた印象です。お会いすると店主はいつも元気を頂きます。
明るい光いっぱいの店内。重厚な梁も素敵ですね。
店舗の横にある窯場のスペース。
以前あった登り窯がある場所を利用して窯を設置。少し傾斜になった工房は趣きがあります。
若葉さんは若いころは沖縄で働いたり、海外に留学やボランティアに携わられたりされたそうです。イギリスやイスラエルでのボランティア活動をすることで現地の人たちとも仲良くなれ、とても良い経験だったと言います。色々なご経験を積まれ、「自分には作ることがいいかもしれない」と思われ、陶芸の道に進まれます。
大好きな飴釉と益子の自然の色と大地を表現することを意識され、作品を作られているそうです。ドット柄やストライプ柄など、どれもモダンで個性的ですが、カタチは昔からの伝統的なものを使い、益子の土と釉薬を用いて作陶されています。
人気のカレー皿は昭和を感じる懐かしい楕円形。お取り扱いは大と小サイズ。
えのきだ窯に代々伝わる手法「ロウびき」を使ったドット柄。ロウを塗ったところが釉薬をはじくことを利用した手法です。
ふたご豆皿。丸と丸が連なったようなこちらのカタチも、昔からある石膏型を利用。薬味や調味料、箸休めのお漬物など利便性抜群。
人気の甕(かめ)は、お味噌はもとより、手づくりの梅干しやらっきょうなどの保存食入れに。水色の格子柄が素敵です!
塩麹などの調味料入れにも。幅広い用途に使えるのでとっても重宝します。保存容器から当座のいただく分のみ甕に移して冷蔵庫に保管しておくのにぴったり。陶器の甕は味がまろやかになるので、店主も手づくり梅干しと新生姜漬けの最後の仕上げとして入れてます。
旦那さまの智さんは大阪出身で、ミュージシャンになろうという夢を持ち活動されてました。自分試しで沖縄のストリートで演奏をしていた時、ちょうど沖縄で働いていた若葉さんと出会います。益子に初めて来たときの印象は「そのあたりが海ならそのまま沖縄って感じがしてすごく好きになった。」とのこと。2009年に若葉さんとご結婚。しばらくしてご本人も陶芸家の道を歩まれます。
この日も窯の中には展示会に出す作品を制作中でした。
智さんはより伝統的な民芸の世界を引き継ぎ作陶されています。受け継がれていた益子焼にモダンなテイストの色合いと風合いが感じられます。
「還元焼成」で焼かれた美しい色合いのカレー皿。
こちらはお色違いの白。やわらかな乳白色の色合いが素敵です。
約15㎝の5寸皿は、使い勝手抜群のサイズ。
どんなお料理にも合いそうなシンプルな佇まいです。
益子の伝統的な釉薬の色合いが美しいコーヒードリッパー。
「掛け分け」と言って2種類以上の釉薬を分けて掛ける技法です。
益子焼の伝統釉の飴釉、藁白釉、緑釉のバランスがモダンですね!
深みのある飴釉がおしゃれなピッチャーも素敵です。日常の生活をシンプルにおしゃれに彩りそうです。
智さんも若葉さんも、伝統のカタチは使いやすく、先人達の知恵や工夫が詰め込まれ、深い意味があり作られているなと感じるとのこと。確かに実際に使うとしっくりとくることに改めて驚かされます。
先代たちへの尊敬の念を込め、愛情をもって作陶されているお二人の今後のご活躍も楽しみにしてますね!
えのきだ窯 本店
栃木県芳賀郡益子町益子4240
0285-72-2528
(更新:2024年1月30日)