静岡浜松の中心地から車で1時間ほど走り、のどかな山々に囲まれた一本道を登っていくと、見晴らしの良い丘の上に福井一伯(かずのり)さんの工房があります。
工房からは緑豊かな山々の連なりが一望出来ます。思わず「やっほ~!」としたくなります。
海が好きだった福井さんは、高校、大学と海洋系の学校で学ばれます。当初は船に乗る仕事に興味を持たれ学ばれてましたが、長期航海での実習経験が思いのほか大変で、自分には向いてないのかもしれない..と思い始めます。そんな大学生の頃、岡本太郎さんのパッションやエネルギーが溢れ出る本や絵を見て、モノを作ることへの興味やあこがれが触発されます。小さなころから絵を描いたりするのが好きだった福井さんは「自分も自らの手で何かを生みだすことをやってみたい。」と思うようになります。タイミング良く山梨の陶芸教室の体験スタッフの募集を見て応募。良い師匠とのめぐり逢いもあり、約5年間のご経験を経て念願の「くるり窯」を築窯。そして地元浜松で陶芸家が使っていたこの素敵な工房に出会います。
伺った日も静岡の豊かな恵みを感じる風が吹き抜けていました。
「気候のいい時は最高ですが、冬は結構寒いです(笑)」と福井さん。
作品に味わい深さを表現するために灯油窯を使用。
工房にある趣きのある煙突が印象的。
前の持ち主の陶芸家の方が残された立派な薪窯。いつかこちらの薪窯も試してみたいとおっしゃってました。
現在の陶芸のお仕事についてお伺いしたところ、「自分で作って、イベントやクラフトフェアなどで売って、お客さんやお店の人と話しフィードバックをもらい、また考えて作って売る。そんな流れが自分には合っていると思います。」と答えて下さいました。
福井さんは、こちらの色々な質問にも一つ一つを分かりやすく答えてくださいます。作品のことを語る時は、修正を何度も加え、使い手側の細かい要望に応えようとされているのが分かります。モノづくりの感性はもちろんですが、理系の感覚も強く持っている方なので、作陶することについて、課題、検証、修正の作業を楽しんで取り組んでいるように感じました。
作品を作る上で、大切にしているのはサイズ感とバリエーション。それぞれの家でよく使う器は異なるので、同じかたちのものを1寸(約3センチ)単位で細かくきざみながら作成。「もう少しこうだったら...」の使い手の声に寄り添ったうつわ作りをされています。
土の風合いを残し丸みややわらかさを表現できるように意識されているため、瀬戸と岐阜の赤土をブレンド。色合いや鉄粉が味わい深く表れるように調整しています。
素地に化粧土を施し、釉薬をかけて焼成(還元焼成)。粉引きのうつわは、だんだんと景色が出来ていき、使うほどに味わい深いものに。
マット釉と灰釉マットは釉薬の違いで色合いが異なります。
灰釉は淡いブルーが上品な色合いです。
粉引のうつわは経年変化も楽しみの一つです。使い始めの頃は、油や食べ物の染み込みが所々現れることもありますが、使っていくうちに全体に馴染んでいくので、違った風合い楽しむことができます。ゆっくりとうつわの変化を愉しみたい場合は、毎回使用する前にさっと水にくぐらすと食べ物の油や色の染み込みを防ぐ効果があります。
今回、新しく取りあつかいする''緑灰釉''のうつわは、つるっとした表面に、翡翠のようなクリアな青緑色がなんとも美しい作品です。
日々、色々な技法を試される福井さん。お話した時には、素地にハンコを押して、呉須(青く発色するもの)
くるり窯さんのお品はこちら
(2022年10月12日更新)