かつて誰かの手に渡り、時を重ねた瓶や古い窓ガラス。役目を終えたそれらは、丁寧に洗いラベルを剥がし、再び炉の中へ。高温の炎に包まれて息を吹き込まれることで、淡くやわらかな輝きを宿した新たな器として生まれ変わります。

その手仕事を担うのは、青梅のガラス作家・平岩愛子さん。
「ガラスというか透明なものが幼い頃から何となく好きで、 ガラスってどうやって作られてるんだろう?という疑問からはじまったかもしれません。」
学生時代に図書館で目にした一冊の本。そこに写る職人の姿に心を奪われ、「この人に会ってみたい」と沖縄へ。
その後、沖縄の老舗・奥原硝子製造所で名工・桃原正男氏のもと、約7年間にわたり技を磨きます。職人の世界へ飛び込んだという、驚くほど前向きで行動的な平岩さんですが、師匠となる桃原正男氏の先輩が、その情熱の源となったあの写真の作り手だったことも、また既に故人となっていたことも、沖縄の地で知ったそうです。
再生ガラスには、厚みや気泡といった“個性”があります。それは、戦後の沖縄で資源不足の中、米軍基地から捨てられた瓶を再利用するところから始まった歴史の証。廃瓶などを素材にすることで、細かな不純物が入り込み、それがやわらかな輝きを生み出します。
厚みのあるグラスは自然と手に馴染み、確かな存在感を感じさせてくれます。
「再生ガラスの制作には、飲み終わった酒瓶のラベルを剥がしたり洗ったりと、色々と手間がかかります。 あとは通常のガラスより、製作時は冷めるのが早いので細かな細工には不向きで、素早い動作も必要です。」
大胆さと繊細さが交差する動き、炎と呼吸がひとつになる瞬間...。沖縄の風土に育まれた「琉球ガラスの魂」が平岩さんの作品のベースとなり、そして日々自分なりのカタチや大きさ、重さなどを模索しながら制作されています。

ヒッチーグラス。「ヒッチー」は沖縄の方言で「しょっちゅう」という意味。日常使いで楽しめるカタチや使い心地を考えて制作。平岩さんの作品名には沖縄の方言がついているものも多い。

現在は東京都青梅市の工房で日々制作に励んでいる平岩さん。工房にお邪魔してきました!

沖縄の海を思わせる青の扉
工房の隣はステキなお店になっていて、作品を購入することもできます。
愛用の窯

材料となる廃瓶は、ラベルを丁寧にはがし、きれいに洗って色ごとに分け、小さく砕くなど、さまざまな下準備がかかせません。

奇抜な作品ではなく、日々の中に自然とあり、使うことで感じる「用の美」を目指して。差し込む光の角度や強さで表情を変えるガラスは、はっとするような崇高な美しさも持ち合わせています。暮らしの中に小さな喜びを運び、食卓や窓辺にやさしい彩りを添えてくれそうです。
時の川をたゆたう光の雫のように、過ぎ去った時間のかけらが炎に抱かれ、新たなかたちへと息を吹き返す。そしてまた誰かの日常の中で、静かに物語を紡いでいく…そんな情景を思い描きながら、これからの暮らしの一頁に、そっと寄り添わせたい器です。
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