伊藤さんのもえぎ色の丸皿をはじめて拝見した時、自然の息吹を感じる色味や質感、伝統的な陶器の風合いの中にモダンなセンスが光る....なんて味わい深いうつわなのだろうと思いました。そして伊藤さんのインスタでの文章。ちょっと‘‘くすっ‘‘としてしまう日々の暮らしの中の出来事をどこか詩的に綴られているのが印象的です。こんな素敵なものを作っている人にお会いたくて、取引のご挨拶も兼ねて岐阜県瑞浪市の工房にお邪魔しました。
「工房は国道沿いのあるので、その時間に道の前に立ってますので。」とおっしゃってくれた伊藤さん。にもかかわらず、カーナビを頼りに下道を進んでしまった店主.....汗
でもそこには一度も来たことがないのに、不思議とどこか懐かしく感じる山々と、単線の電車の線路、土岐川ののどかな風景が広がっていました。ちょっと迷ってしまったけど、この風景が見れたから良かったと思える、そんな場所です。
伊藤さんは、洋食器の会社で働いていた頃、雑貨やアンティークが好きで色々なお店をめぐっていたそうです。
「やりたいことを探していたんでしょうね。地元が産地だったこともあって、作家さん達と話す機会もあったので、自分でも作って売って生活することに興味を持ち始めました。」
本格的に陶芸をしようと愛知県立窯業高等技術専門学校で学ばれます。そして修了後に窯元で経験を積んでいる時にこの工房の物件に出会われます。
元布団工場だった場所は和らな優しい光の入る、まるでギャラリーのような空間と、ゆったりとした作業スペースの2階建て。ご自身でゆっくりとリフォームを重ね、今はだいぶ落ちつたところだそうです。
アンティーク好きの伊藤さんが集めた古い家具などが置かれています。
まだ具体的には決まってないけど、このスペースでいつか何かしたいと思われているそう。きっと素敵な空間になるだろうなあと勝手に想像。
窯での成焼はほぼ毎日されているのだそうです。私たちのとりとめのない質問へも一つ一つじっくり丁寧に適切な言葉を選んでお答えになります。
「試作品を作ったりもしたりしていて、作っては試して、試して作って...。毎日のペースとしてそういうことが自分自身に割とあっていると思います。でも、コロナ禍が出始めたころは、精神的にきつくて作れなかったですね。」と伊藤さん。
そんな繊細な内面が人の琴線に触れる作品を作られてるのだろうな...と思いました。見た時、触れた時、使った時...それぞれに不思議と違う感情が沸き上がるようなうつわです。
「制作する上で大切にしていることは何ですか?」とお伺いしたところ
う~ん、そうですね...と考えて少し間があったのち、
「まずは自分が楽しんで作るということかな。その中で使う人が、自分でも気づかなかった新たな感覚というか好きなものを重ねてもらえたらと思います。人それぞれ、豊かだと思うものも違うし、大切にする生活や食べる量、暮らしのスタイル、救われるものが違う。その中で何か自分の作品の中で共感するものを見つけてもらえればと思います。言葉にするの難しいですね..。」とお答えくださいました。
味わいのある表情や焼き色は、灯油窯を使用し焼成。
新しい窯はお伺いした際は準備中とのことでした。
洋食器の会社にいたこともあって、和食器でも洋食器のカタチをもとに作っているそうです。ほぼろくろで形成してます。
男性的な力強さのあるもえぎ。大地のざらざらとした風合いを残し、鉄粉が個性豊かに表現できるよう、粗目の土岐の土を使用。土の粒子が大きい為、作成の時にも扱いづらいなど手間はかかるそうですが、その分味わいがとても感じられます。何とも言えない草の色、この萌葱(もえぎ)の色は土本来の色だそうです。
柔和な風合いの「粉引」は、土の息吹をより感じる「もえぎ」の対になるものを作りたかったそうです。もえぎと同じ土に化粧土を施しています。あたたかみのある柔やわらかな印象です。
鎬が可憐に、優雅に。
伊藤さんのうつわはお料理が生き生きするような魅力があります。
帰り際、伊藤さんのことが気になるのか、にゃんこちゃんも挨拶に来てくれました!
新しい窯も試され始め、これからも素敵な作品を生み出し続けることと思います。今後も楽しみにしてますね!(この度はお忙しいところお邪魔させていただきありがとうございました。)
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